あとがき &c.

カルチュラル・グリーン第1号(2020)あとがき

  • 『カルチュラル・グリーン』は人と自然の関係をテーマとした学際研究のプラットフォームである。人間にとっての自然は関係性の中にある。自然科学だけでは解けない謎も多い。自然の暴力的な側面を目の当たりにしたとき、人々は途端に自分たちの無力を感じて饒舌になる。水や火や照り付ける太陽のつらさを思い、人々に困難をもたらす自然に介入し人を助ける学問の名を探す。そうしているうちに自然との対話を忘れてしまう。
    私たちの取り上げる自然は決して馴致されない領域を持つ。他者なるものとしての自然と人間との緊張関係の中、生み出される人々の営為を見つめるのである。すると見えてくるものは解剖可能な自然現象から解の得られるものだけではない。人々の心に表象される関係の意味が出来事を規定している。第1号では様々なテーマから考察が展開された。紅茶プランテーションの盛衰の歴史を経て、残された人々の未来に寄り添う暮らしの形はあるだろうか。花をデザインする心に宿る近代合理主義が捨て去ったものは何だろうか。土地の自生種を育てる人々と、消えた先住民の知恵との間にどんな架け橋があるのだろうか。そして、自然から無理強いされるように与えられる豊穣や余剰の果てに、太平洋の島々の取り返しの仕方なさを記述することの意味は?今後これらの考察が、木々が育つように葉を広げ、これまで与えられていなかった視野を拓いていくことを願う。WI
  • 表紙デザイン・撮影:石倉和佳(20190812)
    於国立民族学博物館 インフォメーション・ゾーン展示物、および
    パプア・ニューギニア 盾の文様
  • 『カルチュラル・グリーン』は、2015年から2018年まで発行された『ガーデン研究会ジャーナル』の後続誌である。第1号の発行は、日本学術振興会科学研究費助成、19K04820および18K00423による。

カルチュラル・グリーン第2号(2021)あとがき

  • 『カルチュラル・グリーン』は人間生活と自然との関わりを学際的に問うプラットフォームであり、2020年3月に第1号が発行された。奇しくもその後、新型コロナウイルス感染症が世界的に流行することとなり、日本でも新しい生活様式が求められる中、オンライン研究会を開催するなどして議論を深め、本号の刊行に至った。
    未知の自然現象を前にして、スケープゴートを探すかのような報道が日夜繰り返される事態に戸惑いを覚える。自然には不可知な領分があるという単純な事実が共有されていないように思われる。この不可知性を感じながら、古来、人々は畏怖の念や存在の真理を宗教や芸術として表現し、現象を分析する眼を科学として共有してきたのではなかったか。今一度、自然との間合いをはかり、泰然自若の精神で事態の推移に応答したいものである。
    第2号では、自然と人間との関わりあるいは自然物をめぐる人間どうしの関わりについて考えるという共通認識のもと、太平洋の航海、イギリスのインテリア、ベルギーの装飾芸術、スリランカの住まい、フィリピンの言語、という世界各地を舞台としたテーマが論じられた。バンクーバー船長の評価の変貌、近代住宅における壁面分割の変容、世紀末における原始回帰、スラム再定住の動向、動植物の名詞からの動詞派生、など種々の動態から学ぶものは多い。MS
  • 表紙デザイン・撮影:石倉和佳
    国立民族学博物館 インフォメーション・ゾーン展示物(20190812)
    兵庫県高砂市 出石(おうしこ)神社にある石の宝殿の巨岩壁面、および神社の狛犬の背(20200718)
  • 『カルチュラル・グリーン』は、2015年から2018年まで発行された『ガーデン研究会ジャーナル』の後続誌である。第2号の発行は、日本学術振興会科学研究費助成、19K04820および18K00423による。

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カルチュラル・グリーン第3号(2022)あとがき

  • 『カルチュラル・グリーン』 第 3 号には、芸術や宗教におけるプリミティヴィズムをテーマに論考が集まった。このテーマが展開する領域は様々である。ヨーロッパにおけるキリスト教信条の変遷とユニテリアニズム、19 世紀後半から 20 世紀のイギリスと日本の建築論、ベルギーの前衛芸術派による万博展示、ヨーロッパ建築史に見られる様式の諸相、そしてハワイの「王のマント」。これらの論考はすべてプリミティヴィズムにインスピレーションを受けたものだが、同時にそれぞれの研究領域で今後展開しうる問いと答えの種を孕んだものである。そういう意味で原種と考えてもよい。
     集められた種はどこかに植えられて芽を出し育たなければならない。昨今の研究環境を考えると、芽を出す場所の確保も大変だろう。しかし腕のいい育種家は、どれほど環境の悪い所でも工夫を重ねて植物を改良し美しく育てる。18 世紀半ばの話であるが、ウリ科の植物がほとんど地植えで育たないイギリスでおそらくただ一人、甘いメロンを育てて客人にふるまっていたガーデナーがいた。その人の名を今は誰も思い出さないが、育たないことを気候のせいにする前にすることはきっとあるのだろう。本号の「種」の美しい花や甘い実を見る日はいつになるだろうか。WI
  • 表紙デザイン・撮影:石倉和佳(20210330)
    兵庫県赤穂市 赤穂岬海岸 伊和都比売神社祭殿彫刻
  • 『カルチュラル・グリーン』は、2015年から2018年まで発行された『ガーデン研究会ジャーナル』の後続誌である。第3号の発行は、日本学術振興会科学研究費助成、19K04820および18K00423による。

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カルチュラル・グリーン第4号(2023)あとがき

  • 『カルチュラル・グリーン』第4号には「生命活動と外的自然との結びつき」をテーマに、文学あるいは建築学を専門とする論者から 5 編の論考が集まった。執筆に先立ち、2022 年8月の盆明けに岐阜にて研究会を行った。対面での研究会は 2019 年 4 月以来であり、コロナ禍の研究事情等を情報交換する場にもなった。
    古代とルネサンスのサン・ピエトロ聖堂、トンブクトゥの幻想と実像、近代の織物デザイン、アメリカ大陸北西海岸への航海(以上3つは英国関連)、現代京都の地蔵盆、と各論考が扱う時代や場所は様々であるが、 “life”(訳語としての「生」「生活」「生命」)や「自然」はもとより、「想像力」や「発見」など、複数の論考で共通の言葉が用いられている。これは一度研究会を開催した後で原稿を準備するというプロセスに期待していた化学反応である。ただ、同一の用語が重要なのではない。例えば、どの時代にどのような主体が何に対して「想像力」を働かせたのか、そのベクトルの内実にこそ時代を超えて共有されるヒントがある。なお、掲載順は古代ローマから現代日本へ西廻りで到達するような流れを意図した。ロシアによるウクライナへの侵攻から1年、グローバルなつながりに無力感が漂う中、本号が時空を超えた包括的な議論の一助となれば幸いである。MS
  • 表紙デザイン:石倉和佳
    “Primitive Rush Mat,” Walter Crane, The Bases of Design, 1902, p.50
  • 『カルチュラル・グリーン』は、2015年から2018年まで発行された『ガーデン研究会ジャーナル』の後続誌である。第 4 号の発行は、日本学術振興会科学研究費助成、21K00366および19K04820による。
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